IPAフォーラム2007で討論してきた

10月30日に行われたIPAフォーラム2007の『「学生から見たIT産業」と「IT産業から見た学生」〜IT産業は学生からの人気を回復できるか〜』と題された討論会でしゃべってきた。IPAとは情報処理推進機構の略で、情報処理技術者試験とか、未踏ソフトウェア創造事業をやっているところ。

大学の先生から、討論会に出る学生を求めいているという話を聞いたのが討論会に参加したきっかけ。僕はてっきり、IT産業の未来について語り合うのかと思っていたのだが、「IT産業は3Kのイメージが強く、就職において人気がなくなってきているが、どうすればその人気を回復できるか」というタイトルを聞いて、ちょっとがっかりした。

@ITにこの討論会についての「IT業界不人気の理由は? 現役学生が語るそのネガティブイメージ − @IT」という記事が上がっていた。ちなみに、記事の最初の写真に討論会に参加した学生が写っているが、前列の一番右に座っているのが僕。

この@ITの記事がはてなブックマークで大いに盛り上がっている。この記事では、討論会の内容を正確に伝え切れていないと思うので、ちょっと補足してみたい。僕はIT業界の実態を分かっていない学生なので、コメントなどでいろいろとご指摘いただけるとうれしい。

まず、会場は満員で、270人くらいの聴衆がいて、立ち見まで出ていた。主催者の方に聞いてみたところ、「多くはIT企業で人事とかをやっている人ですよ」とのこと。

ちなみに学生の構成としては、僕(東大で技術経営を専攻している大学院生、学部のときには情報技術を専攻していた)、東大の学部生1人(環境エネルギーを専攻)、筑波大の学生5人(4人は情報技術を専攻)、日本電子専門学校の学生3人(3人とも情報技術を専攻)だった。特にパネリスト・学生間で討論の内容に関する打ち合わせなどもなく、ぶっつけ本番という感じだった。

内容であるが、IT産業、IT企業、IT技術者というくくりが広すぎて、何を話せばいいのかよく分からなかった。結局、討論会の内容もぶれてしまっていたと思う。パネリスト3人は、NTTデータの元社長、TISの社長、IPAの理事長という、IT産業というよりSIerの人気がないことについて語りたいだけなんじゃないかという顔ぶれだったし、もっと明確にテーマ設定をすべきだったと思う。

主催側から、学生には忌憚のない意見を言ってほしいということが伝えられていて、みんなそれなりに突っ込んだ質問をしていたと思うのだけど、パネリストが論点をずらしたような回答ばかりするので、ちょっと気持ち悪かった。本当はもっと突っ込みたかったけど、時間が70分と短かったので、中途半端な感じで終わってしまった。

以下、@ITの記事の内容に補足しながら、流れを追ってみる。

まずは、IT企業へのイメージについて、

「IT産業へのイメージ」との質問に対して学生の1人は「IT産業は自分たちの生活に欠かせないもの、生活を支えてくれる基盤である」と優等生な回答。

優等生的な回答をしたのは僕ですよ。最初に持ち上げてから、後で落とすつもりだったのに、「東大生的な優等生発言で、すばらしいですね」とか言われてしまい、ちょっと失敗。

別の学生からは「トヨタ自動車ソニーのようなユーザー企業と違い、IT(の導入)しか行っていないNTTデータのような会社が一番謎」といった疑問が出た。イメージを聞かれても、そのイメージ自体が何もないという皮肉な答えだ。別の学生からは「(情報を発信するテクノロジなのに)IT業界が何をしているのか分からないのは問題」といった、そもそも論も聞かれた。

それに対して、

岡本氏は「モノをつくっている会社は、イメージがモノで通じている。われわれの業界はモノを作るといってもソフトウェア、もしくはサービスを提供している。目に見えてイメージはわかないかもしれない。インターンなどで実態を見てからもう1度考えていただければいい」と学生を諭した。

BtoBのビジネスをしている企業の業務が学生から見えにくいのは当然で、見えにくいなりに工夫をしないといけないと思う。でも、パネリストの口ぶりからは見えにくいのは当然のことで問題と感じていないというような雰囲気が伝わってきた。興味を持たなければ、インターンにも来ないだろうに。

キッザニアNTTデータの仕事を体験できるブースを作る計画があるみたいで、若い世代に対してイメージを伝えていきたいと言っていたが、そんなに小さい子に対してではなくて、大学生に対して何かやらないと就職については意味ないと思うんだけど。

いくつか挙げられたIT業界のイメージは実にネガティブな内容だった。いわく「きつい、帰れない、給料が安いの3K」に加えて、「規則が厳しい、休暇がとれない、化粧がのらない、結婚できない」の“7K”というイメージだ。学生は、ほかの業界と比べて「IT業界は特に帰れない」というネガティブな印象を強く持っているようだ。

他の学生が「最近は7Kというらしいですよ」とか言ったのは正直うけた。討論会のホームページにもわざわざ書いてある通り、3Kについては問題と認識しているみたい。本当に3K的な職場なのか、話してほしかったのだけど、

ネガティブイメージを突きつけられた浜口氏は、「必ずしも全員が3Kではない」と反論。岡本氏も「3Kの“帰れない”は、帰りたくない人が帰れないだけ。スケジュール管理の問題だ。私は40年間近くIT業界で仕事しているが、何が一番幸せかというと退屈している暇がないことだ。技術が進歩するにつれわれわれの仕事も複雑化してくるが、一生懸命追いかけていくだけでも退屈しない。いい仕事を選んだと思う」と自らの仕事を振り返りつつ、学生に反論した。

論点を挿げ替えているだけで、全然反論になっていない。僕には本当に3Kなのかどうかよく分からないのだけど、はてなブックマークのコメントを見ている限りでは、パネリストの方々は相当現実の見えていない発言をしているようだ。

IT業界はどのような学生を求めているのか。重鎮たちは「コミュニケーション能力に長けている人」(浜口氏)、「チャレンジングで好奇心旺盛な人」(岡本氏)の2点を挙げた。

コミュニケーション力の定義としては、相手の言いたいこと・伝えたいことを引き出す質問ができる、ドキュメントを作成できる、自分のことを表現できるといった、聞く・書く・話すに関係する内容が上げられていた。

学生からは、「コミュニケーション力が必要というのは他の業界も一緒であって、IT業界に固有のものとして、例えば、プログラミングの知識を求めていないのか」という質問も出た。それに対しては、浜口氏、岡本氏ともに、「プログラミングの技術はあった方がいいと思うが、なくても構わない」という回答。もう少し書くと、「プログラミングは入社後にトレーニングすれば問題ない。SIerの業務の中では、いろいろな役割の人が連携して仕事をしている。みんながプログラムを書いている訳ではないので、入社後のトレーニングで適正がないと分かれば、プログラミングをあまり必要としない仕事をやってもらうこともできる」というような回答だった。

僕は、この話を「とりあえず会話ができそうな人をたくさん採用するので、そいつらを鍛えてみて、使えるやつだけ残していくよ」というような意味合いに取ったのだけど、本当のところはどうなのだろう。

ITを専攻している学生達からは、「就職時にITスキルが問われないのだとしたら、大学でやっていることには何の意味があるのか」という質問が出ていたのだけど、明確な回答はなかったと思う。その人たちは、ちょっとショックを受けていたような気がする。

一昔前は「体が丈夫で、従順に働いてくれれば大丈夫だよ」というスタンスで企業は採用を行っていたのかもしれないけど、今の大学生は結構将来のことについて考えていて、社会の構造は分からないなりにも自分のキャリアパスとか思い描いている。採用時にも自分の希望とその会社で描けるキャリアパスを考えて入社すると思うのだけど、学生はとりあえずコミュニケーション能力があればいいというのでは、学生は寄り付かなくなると思う。

その流れで、「入社時にITのスキルを問わないというのは、Googleのような企業の方針とは反対であるが、それですばらしいサービスを作ることができるのか」という質問が出たのだけど、「Googleの開発と日本のカスタムメイドなシステムを作るSIerの開発は違うもの。Googleはスモールチームで仕上げるが、日本は製造業的にラインを組んで仕上げるため、いろんな人材が必要になる。」とのこと。単に効率の悪いシステム開発をしているということではないかと思ったのだが、どうなのでしょう。使っている言語も違うだろうし、一概には比べられないかな。

他の話題としては、IPAの理事長によると、「Google本社には数千人の社員がいるが、その中で日本人は10人くらいで未踏ソフトウェア出身の人が3人いる」とのこと。「せっかく手塩にかけて育てたスーパークリエーターがGoogleに取られてしまっていることについてどう思うか」と聞いたが、「世界で活躍してくれるのはいいこと。スーパークリエーターはたくさんいて、中には起業して頑張っている人もいるし、いろいろな人がいてよいと思う」という回答だった。

そして、討論会の最後に、こんな質問が。

セッションの最後は学生に対しての「将来ITの仕事に就いてみたいか?」という質問。学生10人のうち8人が「働きたい」、残り2人は「絶対に嫌」という回答だった。

とあるけど、10人中、現在情報技術を専攻している人が7人もいたんだから、もともとそういう希望を持っていた人が多いのは当然。僕ももともと情報技術を専攻していて、将来的にはIT関係の仕事をしたいと思っているし。なので、純粋にこの討論会の中で10人中8人が「働きたい」になった訳ではない。

あと、討論の方法については、id:next49さんが書かれているけど(この方は聴衆として討論会に来ていた人みたい)、

今日の討論会を見て思ったのは、明石家さんまのやっている番組「恋のからさわぎ」「踊るさんま御殿」のやり方がうまいということ。これらの番組では、あらかじめお題について回答させておき、その回答に対する詳細説明として話をしてもらう。こうすることで、話を振られたときに何をしゃべれば良いのかをあらかじめ準備でき、本番に頭が真っ白になり何もしゃべれないということを防ぐことができる。また、とっさに面白いエピソードを思いつく必要がなく、充分に吟味した話題をしゃべることができる。

IPAフォーラム2007 - 発声練習

僕も同意見。素人が討論をする場合には、具体的な質問を決めておいて、それに事前に答えさせておいた方が、スムーズだろう。id:next49さんは「恋のからさわぎ」「踊るさんま御殿」を例に取っているが、分かりやすい。

今回の討論会は、主催者の方々的には成功だったようで今後もやるかもしれないというようなことを言っていたので、ちょっと提案してみようかな。

長くなってしまったけど、不明点、突っ込みなどあれば、コメントください。